鴨東幼稚園

臨床心理士・ゆかこ先生のおはなし

「やりたくない!」と言える力

金木犀が香る秋らしい気候になりました。相次ぐ台風に、各地の被害が心配されますがご家族、ご親戚の方々はご無事でいらっしゃいますでしょうか。被災された方々が少しでも早く元の生活を取り戻すことができますようにお祈りしています。

さて、幼稚園では先日、さわやかな秋晴れの下、運動会が無事に終わりました。子どもたちのがんばったことたとえ、競技には参加しなかったり、うまくできなかったとしても、練習からの子どもたちの心の動きを想像すると、幼い心と体でいろんな思いを抱いて精一杯がんばっているんだなぁと胸が熱くなります。一年一年、毎日毎日の子どもたちの成長は大人の想像をはるかに超えているなぁと、改めて驚かされました。また卒園生や、お兄ちゃんお姉ちゃんたちの頼もしい姿にも会えて、とても嬉しかったです。お友だちと楽しんで参加したり、大勢の人の前にしっかり出られたり、小さい子の面倒を見たり、先生のお手伝いをしたり…幼稚園時代に培われた力がしっかりと土台になり、自分への自信につながっているんだなぁと実感しました。

先生方、親御さんが、子どもたちの気持ちを尊重し、子どもの力を信頼して焦らず、子どもに任せていると、子どもたちは自ら“ここぞ”という時に力を発揮します。今、子どもたちが幼稚園で経験していること、またその時に周りの大人がどう関わってきたか、ということ全てが子どもたちの心の糧となります。子どもたちが表現するどんな姿も、“よくがんばっているな”という思いを持って見て頂けたらと願います。

運動会のような行事や日々の保育の中で、またお家での生活習慣や習い事などの中でも、大人が思う「やらなければいけないこと」と子どもの「やりたいこと」はしばしばズレていることが多く、そこで大人はイライラしたり頭悩ませることも多いのではないでしょうか。ある程度の年齢になると、「やりたくないけど、今はやらないといけない」と自分の中でうまく気持ちの折り合いをつけられるようになってきますが、まずは「やらなければいけないこと」は置いておいて、「やりたいこと」を思う存分やった!という体験を十分にすることが大切です。そうすると子どもはえらいもので、いつのまにか自分から、やらなければいけないこともするようになっていきます。しかも、それまでやりたい放題やってきた子が、やらされるのではなく、自ら納得して自分の意志でする時、驚くような集中力や想像力、創造力を見せます。

幼児期に「やりたくない!」と主張できること、やりたいことを思う存分させてもらうことは、自分で考える力、自分で選択する力、人と比べたり周りの顔色を見るのではなく、自分は自分と思える力につながります。そして思春期以降になって、イデンティティーの課題にぶつかったり、自分は何がしたいのかと考えるようになった時の心の土台になります。子どもが「やりたくな~い!」と言ってきた時、どうしても必要な最小限のこと(よく考えるとそれほど多くありません)以外は、“あー、しっかり育ってるな”と思って大らかに見て頂けたらいいですね。

おもいっきりあそんで

桜吹雪が舞い散り、新緑の若葉が芽吹き始めました。

皆様、ご入園、ご進級おめでとうございます。キンダーカウンセラーの有井友佳子です。

鴨東幼稚園に努めて今年で14年目。ここで初めて出会った子どもたちが、この春、高校を卒業したり、大学生になったり、それぞれの道に進んでいることを見聞きして、時に流れに思いを馳せています。その頃は、まさか自分が出産して、その子どもがここでお世話になることを想像していませんでした。同じ年頃の子どもを育てながら、この仕事をしていてあらためて、子どもの持っている力は素晴らしいこと、周りの大人はその力を信じて見守ることの大切さ、そしてまた、親としての心配や苦労も痛いほど実感しています。一度きりしかない幼児期、皆さんと一緒に、子育てのよろこびも大変さも共有しながら、子どもたちとの時間を愛しんで過ごしていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いします。

新年度が始まって2週間。お子さんたちの様子はいかがでしょうか?それぞれの子どもが色々な思いを抱いて過ごしていることと思います。特に新入園の子どもたちは、初めてお家から離れて、子どもにとっての大きな社会に出るという大冒険です。先生方に守られて、のびのびとお家の外の世界ってこんなに面白いんだ!と思える体験をたくさんして欲しいなと思います。

幼稚園生活の中でいちばん大切なことは、たとえ何もできなくてもまずは、思いっきりあそぶこと。子どもは好奇心と想像力のかたまりです。砂や水でひたすら同じことを繰り返したり、じーっと虫や植物を見たり、かくれてちょっといたずらをしてみたり、他の子がしていることをマネして挑戦してみたり‥‥遊びのすべてが、最高にワクワクする実験や発見の連続です。この遊びの中から子どもは、物事のしくみや社会のルール、人とのコミュニケーションなどあらゆることを自ら学び、そして「わかった!」「やってみたらできた!」という自信や自分で考える力など、さまざまな生きる力を身につけていきます。また、五感をフルに使ってあそぶので、情緒も豊かに育まれます。子どもが「ねぇねぇ!こんなんみつけたよ!」「やってみたらできたよ!」と目をキラキラ輝かせて言ってくる時、どんなささやかなことでも「ほんまやね!」「おもしろいね!」と子どもの発見や感動を同じ気持ちで感じてみてほしいなと思います。子どものあそびをじっくり見てみると、とってもおもしろいですよ。

1つ学年が上がった子どもたちは、おにいさんおねえさんになったことを意識して、とても頑張っている姿が見られます。親としては、ついつい“もっと○○○になってほしい”“こんなんで大丈夫かな?”と期待や理想があったり、焦ったり、人と比べて心配になる事もあると思います。(私も例になれずです…)けれど、子どもの発達や個性はそれぞれ違います。ひとりひとりの子どもの素敵な個性や魅力を親御さんや先生方と一緒に、たくさん見つけていきたいなと楽しみにしています。

幼児期に大切なこと③信頼~卒園するゆりぐみさんへ~

道を歩いていると、ふわっと沈丁花の甘い香りに春の訪れを感じます。いよいよ学年末が近づき、子どもたちの成長には驚かされるばかりで、お別れ会や卒園式の練習を見て早くも涙涙…です。

先日、ゆり組のお母様方とのお話会がありました。お忙しい中、たくさんご参加下さりありがとうございました。どのお母さんも子どもの成長をしっかり感じておられ、そのことを皆で共有することができました。「小学校に行って、またへこむこともあると思うけど、大丈夫と思える」とおっしゃったお母さん、「新しい環境に不安もあるが、なんとかなる!」とおっしゃったお母さん…これからも何かあったら、子どもと一緒に考え、一緒に泣き、時が来るのを待てばいいとみんなで話しました。この幼稚園で「待つ」ことの大切さを教わった、先生方が「ここまで待つのか」というほど待って下さった(叱らない、子どもに合わせる)と口々におっしゃっていたのが印象的でした。これから色々なことがあっても、その時に焦らずどうすればよいかが、お母さんたちにはよくわかっておられるのだなぁと頼もしい思いがしました。

「待つことができる」「大丈夫と思える」のは、子どもの持つ力を信頼しているからこそ出来ることです。子どもたちの成長も、この親御さん方、先生方との信頼関係があってこそです。日々の園生活の中で、どんなささやかなことでも、子どもの表現することをしっかりと受け取り、子どもの心に誠実に耳を傾け一緒に感じ考える、ということをいつも一生懸命にして下さっている先生方のご尽力にも改めて頭が下がります。

自分が信頼されて育った子どもは、自分自身のことも信じることができ、また人のことも信頼することができる人間に育つのではないかと思います。自分をそして人を信じることのできる力は、ここぞという時の底力になります。その力をしっかりつけて巣立っていく子どもたちに、心からのお祝いとこれからの素晴らしい未来をねがっています。

次のステップに向けてついつい親としての心配から「もうすぐ小学校(○○ぐみ)になるんやから(ちゃんとしなさい、自分でしなさい)」「そんなんしてたら小学生(○○ぐみ)になれへんよ」というような言葉が口をついて出てしまう時期かもしれません。でも、子どもは本当にえらいもので、自分でちゃんとわかっていて、黙っていてもやるべき時が来たら必ず自らちゃんとするようになります。知らず知らずのうちにプレッシャーに感じていることもあるので、なるべくその言葉は言わないで、むしろ親は子どものがんばりすぎにブレーキをかけるくらいの気持ちで、一日一日を楽しんで過ごしてくださいね。

自立(自律)はあせらず

新年あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。

冬休みは子どもたちにとっては楽しいイベントが盛りだくさんで、大好きなお母さんお父さんとゆっくり過ごすこともでき、心のエネルギーを充電できましたか?(親御さんの方はバタバタ大変だったかもしれませんが…)

3学期、幼稚園では毎日の生活や色々な行事を通じて、子どもたちの1年の成長が特によく感じられる時です。忙しい日常の中でも、しばしゆったり1年前を振り返って、子どもたちみんなの成長をしみじみ味わいたいなぁと思います。

さて、前回のおたよりで乳幼児期に大切なことは「基本的信頼感」(≒甘え)を築くことだと書きました。今回はその次の段階「自律心」についてです。1才頃になると、子どもは色々なことへの興味や意欲が高まってきて、ハイハイからしだいに歩くようになり、自分で動ける範囲がぐんと広がります。そして、自分の意志で行動するようになってきます。自分でごはんを食べたり、お着替えをしたり、トイレットトレーニングも少しずつ始まります。「自律心」とは、自分で自分の身体や心をコントロールできるということですが、それができた時に、親や身近な人から褒められ認められることで、喜びと達成感を感じ徐々に「自律心」が確立されていきます。自律心を育てること(≒しつけ)は、その子どものタイミングでなされることが望ましいです。また子どもの側の準備が十分に整っていない段階で“○○才になったらおむつをはずそう”というように焦ってしつけをしようとすると、できなかった時に叱られたり、“自分はできない子だ”というふうに思ったり、自律心を育てるどころか自尊心を失うことにもつながります。ここで「基本的信頼感」が育っていると、子どもは自ら“じぶんでする!”“やってみたい!”と思うようになってきます。その気持ちの芽生えが自律心を育てるチャンスです。子ども自身が自分の意志で行動し、挑戦し、失敗もしながら“できた!”という体験を繰り返す中で、自律心はしっかりと培われています。

トイレットトレーニングについてですが、身体の機能や心の準備が整う時期には大きく個人差がありますので、焦らずその子のタイミングで大丈夫です。自分で「おしっこ!」と言い出すのをゆっくり待って、その時には「すごいね!自分で言えたね!」と一緒に喜べるといいですね。

幼児期に大切なこと②

青空のもと、外あそびやピクニックが気持ちいい季節になりました。子どもたちが落ち葉や木の実をたくさんひろって、思い思いに想像力をふくらませて遊ぶ姿はいいですね。

やっとやっと運動会も終わり、子どもたちはほっと一息という感じでしょうか。初めての運動会、2回目、3回目の子どもたち、ゆり組さんは最後の運動会…それぞれに色々な思いで精一杯臨んだことと思います。練習から本番まではりきって取り組む子もいれば、みんなでの練習や大勢の人前で尻込みする子もいるでしょうが、どの子もみんな、心の中では一生懸命、色んな思いを持って意識しています。表に表れるのがどんな姿であっても、たっぷりほめて下さいね。中には無意識のうちに、緊張していて夜眠りにくくなったり、指しゃぶりなどの症状が出たり、聞き分けがむずかしくなったり、いつも以上に甘えてきたり…普段と違う様子が見られることもあります。そんな様子が見られた時は、あ~すごく頑張ってるんだなぁという思いで見ていただき、しつけなどは少しゆるくしたり、いつもより甘えさせたりしてもらえると、子どもはとても安心でき、心のエネルギーが回復します。

運動会や行事の前後に限らず、普段から「甘えさせて」と口うるさいほどにお伝えしていますが、どこまで甘えさせていいのだろう…自立やしつけは大丈夫だろうか…と思われる親御さんもおられると思います。赤ちゃんの頃は、赤ちゃんは泣けばすぐに抱っこ、ミルク、おむつなど無条件で要求を満たしてもらえます。そのくり返しで子どもは、自分は守られている、安心できる、世界は信頼に足るものだ、という“基本的信頼感”(=人格形成において最も大事な土台)をしっかりと築いていくことができます。成長に伴い幼児期になってくると自分で出来る事も増え、子どもの要求も変わってきますし、親の方も、もう○○才なんだから…とつい早く自立させようとしがちです。けれども、“基本的信頼感”は乳児期にだけ育まれるわけではなく、幼児期以降も(時には学童期でも)その時々の子どもの求める要求をできる限り、(無条件で)満たすことで、十分に育まれていきます。ですから、子どもの求める“甘え”にはいくらでもこたえてよい、と私は思っています。それで自立やしつけの妨げになるわけではなく、むしろ、子どもが“自分は受け入れてもらっている、大切にされている”という体験を十分に積み重ねることによって、いつか子どもの側の準備が整った時に、すーっと無理なく自立していきます。そして何より、子どもがこれからの人生において、何か困難にぶつかった時に、自分を守る力、乗り越える力になっていきます。人生のはじめの数年のこと、大いに甘えさせて、焦らずゆったりと、親子の時間を過ごしてもらいたいなぁと願います。(とはいえ、毎日毎日のことそんな余裕がないこともよくよくわかります…親もカンペキじゃなく、できる時もできない事もあって◎)